Ⅰ. 赤峰和の時事解説 第109回
韓国でも、日本でも、名誉毀損というスラップ訴訟が行われ始めた

最近は、名誉毀損訴訟と言う言葉がやたらと目を引きます。
韓国では大統領の意向で産経新聞の前ソウル支局長の加藤氏を刑事と民事の両方で裁判にかけるようですが、これで、韓国という国が「法治国家」ではない「独裁国家」だということが世界に知れ渡ってしまいました。おまけに、パククネ大統領の「空白の七時間」について全世界が知ることになりました。韓国側の論理は、朝日新聞の報道によれば、つぎのような表現になるようです。
日本での取材経験がある韓国人記者は、韓国の大統領の位置づけを「国家元首であり、日本における首相よりも大きな権力があると受け止められている」といい、「その権威を傷つける私生活の疑惑を報じた産経側に問題がある」とする。
韓国のこのような考え方そのものが法治国家ではないことを意味しています。と申しますのも、先進国では、名誉毀損における公人への批判は免責されるのが通例なのです。その理由が「公人に対する批判は、国民にとって政治や社会のあり方を知るうえでの不可欠の情報であり、表現の自由として保護する必要性が高い」とされているからです。
アメリカで歴代大統領が新聞記事に激怒して「名誉毀損訴訟を起した」などと聞いたことがないでしょう。ヨーロッパでも同じです。もし、日本が韓国みたいな考え方をしているのであれば、朝日新聞の主筆であった若宮啓文氏などは「安倍の葬式はうちで出す」(『約束の日:安倍晋三試論』)などといっているのですから即座にアウトです。
このように、先進諸国での法律の考え方と韓国の考え方では大きな差があります。しかも、韓国の法律は、不遡及の原則【※1】を無視して、新しい法律で過去を裁くという考え方を用いていますので、法治国家の範疇には入りません。為政者の気分で法律が定められ過去に遡って適用されてしまうのです。
【※1】不遡及の原則:新しく法令が制定された際,制定前の事実にまでさかのぼって適用されることがないという原則。
ところで、韓国の大統領は言論封殺の目的で名誉毀損訴訟【※2】を起しましたが、反日思想を持った人たちも最近になって名誉毀損訴訟を連発しはじめたようです。
【※2】名誉毀損訴訟には刑事と民事の二つがありますが、刑事事件にする場合は警察への告発が必要です。しかし、警察はよほどのことがない限り刑事告発をすることはありません。途中で「和解」されると告発の意味がなくなるからです。その分、民事事件としての名誉毀損訴訟が多くなります。民事の場合は損害賠償請求が対象となります。
元NHK職員で現在SBI大学院大学客員教授の池田信夫氏のもとに、福島瑞穂氏と従軍慰安婦に関する最初期の対日補償請求運動を展開した弁護士の高木健一氏より、いきなり名誉毀損訴訟の訴状が届いたとのこと。それも、普通は事前に内容証明などで「警告」などがあるのですが、そういう段取りを一切無視しての提訴のようです。
高木健一弁護士からの訴状 2014年10月09日21:05
きょう高木健一弁護士から名誉毀損の訴状が来た。その根拠は、私の「慰安婦を食い物にする高木健一弁護士」という記事だ。ここで私が書いたことは、彼が韓国からインドネシアまで行って原告を募集したという周知の事実である。1996年の「朝まで生テレビ」で、藤岡信勝氏に面と向かって証拠を突きつけられ、高木は反論できなかった(奇妙な字幕があとからついた)。
くわしいことは書けないが、プロの訴訟とは思えないほどお粗末だ。そもそもこれはブログ記事なのだから、彼が「誤りがあるので訂正しろ」といえば訂正できる。あの上杉隆でさえ、そういう内容証明を出してから訴訟を起こした。それが今度は、反論も訂正要求もしないで、いきなり本訴だ。【中略】この記事の本当の主人公は、福島みずほである。彼女が高木と一緒に慰安婦訴訟の原告を募集し、NHKなどの報道機関に売り込み、日本政府と韓国政府が和解したあとも国会で質問させたりして騒ぎを大きくしたことは、石原信雄氏が証言している。彼女は最重要証人なので出廷を申請し、国会の代わりに私が法廷で事実関係を問いただしたい。
この記事を見ると「高木は苦しまぎれに、西岡力氏などあちこちに訴訟を乱発しているようだ」とありますから、かなり焦っているのでしょう。こういうのをSLAPP訴訟【※3】といいまして、よくカルト系の宗教団体が、敵対する勢力に威嚇して口封じに使うために使うものです。韓国の今回の訴訟もこの一つに入ると思います。
【※3】SLAPP:訴訟威圧訴訟、恫喝訴訟。公の場での発言や政府・自治体などの対応を求めて行動を起こした権力を持たない比較弱者・一個人に対して、大企業などの優越者が恫喝・発言封じなどの威圧的、恫喝的あるいは報復的な目的で起こす訴訟である。
このようなSLAPP訴訟を連発しはじめたということは、提訴した側が相当追い詰められているということなのです。誰も認めてくれないから裁判所からのお墨付きをもらって「正当化」して、相手の言論を封じ込めようとしているのです。
結果は、高木氏の敗訴になると思います。最高裁までいっても同じです。理由は、「裁判所は歴史の問題について見解は示さない」からです。あまり意味のない裁判になりそうです。
池田氏が福島瑞穂氏を証人申請することは当然のことです。高木氏側はその証人申請に抵抗するでしょうが、抵抗し始めた段階から高木氏側は総崩れとなります。なぜなら、福島氏の証人出廷を拒むために高木氏側の主張がどんどん後退し始めるからです。
福島氏が証人として出廷した場合でも、その発言は公式な記録となります。偽証すれば偽証罪に問われますし、真面目に答えれば、決定的な証拠としての価値を持つことになります。
高木氏がこのようなSLAPP訴訟を起したのは、高木氏自身、韓国の裁判ばかり見ていたために、日本の司法制度と韓国の司法環境を混同しているからなのかも知れません。
それにしても、今年(2014年)6月の「河野談話検証」の威力には驚かされます。あの検証で流れが全て変わりました。8月5日の朝日新聞の記事取消をも引き起こし、従軍慰安婦という言葉が朝日新聞と韓国政府の共同謀議で捏造されたというのが明るみにでたのですから。(「捏造した植村元記者と事前に共同謀議した人びと」ご参照 )
したがって、反日勢力にとっては、「慰安婦問題」を主張しようにも、根拠となる前提が崩れたのです。そこで名誉毀損訴訟で言論封殺をはかり、司法の場で「慰安婦」を認定してもらおうと考えたのでしょう。
また、12月15日には、次世代の党の桜内文城代議士に対する名誉毀損訴訟(中央大学吉見義明氏提訴)の第六回公判が行われます。(「桜内名誉毀損訴訟の本質-2」ご参照 )
反日勢力にとってはこれまでとは違った情勢となってきました。2014年はいろいろなことで転換点になるようです。
ここで、司法制度にも詳しい識者からのご意見をいただきます。
・「自分の意にそぐわない相手を司法に訴える」という考えの中には危険な要素も含まれています。
・本来、話し合いや言論によって、双方の立場や考えを理解し合いながら解決を図るべき物事を、「法の力」で相手を屈服させようとすることは暴力行為と言っても過言ではありません。
・韓国政府の今回の措置は、国際社会から見ると原始的で野蛮な行為と言えます。
・また、すぐに提訴する反日グループやカルト宗教団体にもその傾向が顕著に見られます。
・相手を自分たちの思い通りに屈服させたいという考えが根底にある者が、相手を殴り倒す代わりに,司法を利用し「法による暴力」で相手を倒そうとするのです。これは手を振り上げて暴力をふるうことよりもひどい致命傷を相手に与えるのです。
・池田信夫氏を訴えた高木氏にも同様の考えがあるようです。
・高木氏の名誉とは「偽りで得た名誉」です。社会に貢献して得た「本当の名誉」には程遠いものです。
・偽りの名誉には名誉棄損は適用されません。
・この機会に、司法に携わる方々、日弁連の方々もその体質や基本姿勢を、法の原点に立ち返り、改めて考えていただくことを期待します。
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